【書評】「青春失格男と、ビタースイートキャット。」「アンティゴネー」の感想
▼「青春失格男とビタースイートキャット。」
青春失格男と、ビタースイートキャット。 (ファンタジア文庫) [ 長友 一馬 ]
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おすすめ度:★☆☆☆☆
ただの変態的な話というわけではなく、思春期のアイデンティティを題材にした小説。
ちょっと漫画の「悪の華」に設定が近すぎないだろうか。「悪の華」+「涼宮ハルヒの憂鬱」というような小説。
話としてはほぼアイデンティを失っている主人公が、女の子との「普通ではない関係」によって満たされていくという内容。
そして満たされることによって「普通の世界」からは隔絶されていく。
主人公の存在感はおそらくわざと薄く書いているのだろうと思われるが、それ以外のキャラクターも含めて、どうもうまく利いていない。
またこのような小説を書くにあたっては情景の描写や、くどくなりすぎない内面の葛藤を描くべきで、そこが不足している。
不足しているから、小説の世界観がうまく現れてこず、結局思い出されるのは女の子の脇の下を舐めている情景のみで、作者のもくろみとはおそらくずれている。
女の子の脇の下を舐める光景を見たいだけであればエロ漫画の方がよっぽどいい。
考えるに、まずこの主人公の存在感の希薄さで一人称の小説にしてしまったのが、情景、内面の描写の欠けてしまっている要因だと思う。
ここは致命的な欠点で作品全体が曖昧な印象になってしまっている。
読んだ後に心に刺さるなにかが何もない。
もしかすると作者はシナリオライターということなので、地の文に特別な意識がないのかもしれない。
小説とシナリオは同じように見えて、全然違うものだ。
▼「アンティゴネー」ソポクレース
アンティゴネー【電子書籍】[ ソポクレース ]
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おすすめ度:★☆☆☆☆
つい最近読んだオイディプス王シリーズのオイディプス王が死んだあとの、娘であるアンティゴネーにまつわる後日談的な話。
神に呪われた悲劇的な運命をもったオイディプス王がいなくなったあとの世界は、正直トーンダウンがいなめない。
アンティゴネーが自分のことを「生きているものでも死んでいるものでもない」と言ったところは、はっ、とする一言だったけど、正直面白いと思える箇所がほとんどなかった。
人間の精神的なものは普遍的だけど背景となる時代があまりにも昔すぎてどうしてもピンと来なかった、というのが全体の所感。
ただし、こういうギリシャ悲劇が今の小説の源泉となっているわけで、小説の勉強をしている人は読むべきだと思います。