【書評】「地獄篇三部作」「なんとなくな日々」の感想
▼「地獄篇三部作」大西巨人
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タイトルがめちゃくちゃ仰々しい、「神聖喜劇」という小説で有名な大西巨人の作品。
ちなみに僕は「神聖喜劇」もまだ未読。読まないとね。
で、この小説はちょっと変わった構造になっていて、
第一部で、大西巨人とおぼしき、大螺狂人という作家がでてきて、編集部の人間とか、他の作家の話がパロディめいた感じで繰り広げられる。
第二部がその大螺狂人の書いた小説。内容は戦時中がゆえの虚無的思想を持った主人公の悲しい恋愛の話。
そして最後に三部がその小説を見た作家たちが批評をする、という三部構造。
まぁなかなか変わった小説。
第一部の「笑熱地獄」のパロディは正直あまり面白くなかったが、斉藤茂吉の「歌つくりを現世出世の道と思うな」という一言に表象されるトニオクレーゲル的な芸術家小説と読むことができ、そういう意味では結構面白い。
第二部は文体が格調高くて少し読みづらい部分もあり、またちょっとさすがに小説全体が暗すぎるきらいもあるが、ひとつの短編として、これもまたそれなりに面白い。
それにしても他作品の引用がかなり多く、大江健三郎の後期の作品に通じるものを感じるのは気のせいだろうか(書いた年代的に大西巨人の方が先?)。
▼「なんとなくな日々」川上弘美
なんとなくな日々 (新潮文庫) [ 川上弘美 ]
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川上弘美のエッセイ。
タイトル通りなんてことない日常を書いている。
ほんわかした日常に、ほんわかとした思索が心地よく、読んでいてほっこりしてくる良いエッセイ。
この人のすごいところは、なんてことのない日常を書いているのに、まるで小説の世界のようになっていること。
T子さんの話なんてまるでちょっとした短編のようだ。
これは川上弘美の文体のなせる技だと思う。
僕はこの人の文章が好きで、何て言っていいのかわからないけど、力みがない。
小説を書こう!という意識で書いていないんだろう。きっと。
はっきり言って、下手な小説家の書く小説よりも「小説になっている」。
これが実力のある作家か……、と驚かされる。