【書評】「君の膵臓をたべたい」「僕の好きな人が、よく眠れますように」の感想
▼「僕の好きな人が、よく眠れますように」中村航
僕の好きな人が、よく眠れますように (角川文庫) [ 中村航 ]
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前回の記事で中村航の「夏休み」をつまらないとこきおとした。
さすがに作者の作品をひとつしか読んでいないのにつまらない作家だと断言するのは失礼だと思ったのでこの「僕の好きな人が、よく眠れますように」を読んだ。
そしてやっぱりつまらない。
ちょっと作者のことを調べてみると読書量自体はあまり多くないようで、影響を受けたのは村上春樹・江國香織・よしもとばななだという。
たしかにこれらの作家の表面的な部分だけに影響を受けて、思いっきり間違った読み方をして小説を書いたのであれば、こんなような作品になってしまうだろうと変に納得。
村上春樹と江國香織ははっきりいってかなり文章がうまい。似たように書いても似て非なるものにしかならず、本当に薄っぺらいものになってしまう。
この作者は自分がそうなってしまっているのに気がついていないのだろうか。
来歴を見ると「夏休み」とこの小説を書くまでの期間は何年か開いているので当然気がついていないんだろう。
とにかくこの人の小説には中身がない。
中身がなくても面白くしようと意識しているのであればそれでもちろんいいのだが、そんな様子もない。
ポエムを読まされている気分だし、作者の書き方もそれに近いのだと思う。編集、もっと注意してやれよ。
「夏休み」同様、また懲りずに寒いゲームの話が出てくるし、一人称小説なのに「ここには書けないようなこともいっぱい言うし」といきなり日記のような文章が出てくる。
唯一良い点をあげるとすれば、読みやすいというところ。30分で読めた。
いや、でも時おり出てくる一体何の効果があるのかわからないカタカナ表記は読みづらい。かっこつけないで普通に書いてください。頼むから。
少しくらいほめよう。
最後の方の二人の会話の連続の部分は恋愛小説としてはよかったと思う。女の子の「引いちゃうくらい好きだよ」みたいなセリフはよかった。
まぁそういう部分もあるので作者の世界観を好きな人がいてもいいと思うが、僕はもう読まないかなと思う。同じような世界観なら橋本紡さんを読むことをおすすめします。
最後にどうでもいいが、毎度毎度表紙はよくて腹が立ってくる。
▼「君の膵臓をたべたい」住野よる
君の膵臓をたべたい [ 住野よる ]
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「きみすい」
話題の本を今さらながら読んだ。
おそらく人気のある本だから、アマゾンとかのレビューはきっと逆にめちゃくちゃ悪いのだろうと思う。見てないけど、世の中そんなもん。
で、僕個人としてはすごくよかった。
気になる点として、
・主人公そこまでコミュニケーションをとれない人間ではないのでは?
・後半がやや冗長
・咲良が主人公に好意を抱くところが薄い
という3点があったが、まぁそれを差し置いても、いい。
こういういわゆるお涙ちょうだいの好きな人が死ぬ系の小説を無条件に批判する人がたまにいるが、作者にきちんとしたバックボーンがあればまったく問題ないと思う。
上で感想を書いた中村航と比べ、この作家はしっかり自分の文体を持っている気がする(合う合わないはあるとしても)。
だからこそ、読んでいて面白く感じるのだろう。
この小説は新人賞に送って落ちたものだという。
たしかに新人賞では難しいかもしれない。
先にあげた3点の欠点と、物語の筋が弱いというところが原因だろう。
文章で何とか読み進めさせられているが、やはり欠点は多いので下読みの人を攻めてばかりはいられない。
小説家になろうで発掘されたというエピソードはなるほど納得できるものだ。
欠点が多くても面白いと思わせられるのは、何度も言っているが文体と、作者の思い入れの強さだと思う。
話題になる本は批判もされやすいが、これに関しては読んで損はないのでは?
(ちなみに中村航の小説はアマゾンとかのレビューも悪いが、作品自体本当に悪い。たまにはレビューもあてになるもんだ)