登場人物論④~小説における会話文~
▼登場人物同士の会話について
登場人物の魅力を伝える上で、会話文というのは非常に大事な要素です。
いくら登場人物を作者きっちりと想像できていたとしても会話文がぎこちないものであれば、その瞬間その人物は生きた登場人物ではなく、役割を演じる人形にすぎなくなります。
▼会話は作者ではなく、登場人物同士が行っているということを意識する。
登場人物の会話を決めているのは当然作者ですが、作者の考えた通りでしかない会話を登場人物にさせるのはいかがなものでしょうか。
作者が考えただけの会話はどうしてもムダがなさすぎる会話になりがちです。
しかしムダのなさすぎる会話ほどつまらないものはありません。会話はあくまで登場人物同士が行っているということを意識し、ある程度ムダ・ムリ・ムラのある会話になった方が、生きている会話と言えるでしょう。
▼ふとした会話の中でその登場人物の個性を出す。
ふとした会話文の中でも、その登場人物の内面を表現することができます。
すごく単純に言えば、乱暴な言葉遣いの人の会話は聞いているだけでその人が乱暴な性格であることを理解することができるし、おどおど話す会話であればその人物が自己表現の苦手な引っ込み思案な人物であることがわかります。
これは極端な例ですが、このように登場人物の性格をより生き生きとしたものに見せるためにも会話文は十分に意識して書かなければなりません。
特にライトノベルでは登場人物の個性を表現するためにかなり特徴のある会話文が書かれていることが多いです。個人的には人工的な会話のためあまり好きではないのですが、反面文学作品は会話文が地味で説明的になりがちな部分があります。
そういう意味ではライトノベルから学ぶ部分もあるのかもしれません。
▼説明するのが難しいことを会話文を使って表現する。
基本的に小説は地の文を使って色々と説明をすることになります。
しかし、地の文でわざわざ説明することがナンセンスな内容も時にはあります。
そういった時に会話文を活かせばうまく表現できる時もあります。
例えば二人の登場人物がいて片方がもう一人に対して好意を持っているとします。ですがそのもう一人はあまり好きではない。
そんな状況を片方は積極的に話しかけている、けれどもう片方は素っ気ない対応を取り続けている。こんな会話文を何回か読めば読者も説明しなくても、「あぁ、こっちはあんまりもうひとりのことが好きではないんだな」というのが何となくわかります。
地の文で説明するよりも読者にとってもわかりやすく、また生きた人間としてこの人物のことを見れるので小説世界が深まります。
このように会話文は登場人物の性格、心理、気分、ものの考え方、感情の動き、背景にある人生、そういったものを伝えることができます。
▼小説の会話文を自然なものにするのは難しい。
ここまでで会話文がいかに大事なものかどうかを理解していただいたと思いますが、実際会話文を書くとなると、それを自然なものにするのは非常に難しいのがわかると思います。
その理由としては小説の会話文には「音がない」からです。
通常人間同士の会話はそれぞれ耳で聞いているので声の調子などがわかります。それがわかることによって自然と嬉しそうだとか、怒っているだとか、そういうものがわかるようになっています。
けれど小説の会話文にはその「音がない」ので、会話文で表現しようとするとどこかわかりづらかったり、説明的なものになりがちです。
作者は現実世界にある会話と小説における会話にはこのような違いがあることを十分に理解する必要があります。
▼結局魅力的な会話文とは?
魅力的な会話文を書くのは非常に難しいですが、ひとつ言えることとしては小説世界を説明するための会話にしないことだと思います。
なので、
・会話文で物語を語らない。
→物語の設定を登場人物の会話で説明する。
・会話に情報を入れる。
→普通会話で起こりえない説明を会話文の中に入れる。
・会話に作者の思想を入れる。
→ドストエフスキーとかそうですが、現代では流行らない。
これらを禁じ手として考え、先に挙げたことを踏まえたうえで、登場人物と試行錯誤しながら会話文を書くことが、会話文を書くコツと言えるでしょう。
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