【書評】「犬婿入り」「四十一番の少年」の感想
▼「犬婿入り」多和田葉子
犬婿入り (講談社文庫) [ 多和田葉子 ]
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多和田葉子の芥川賞受賞作。
とりあえず言えるのは安部公房とかと同様、カフカの派生系の作家だということ。
個人的にはカフカはわかる。
けど正直安部公房は初期の「壁」とかはいいなと思ったけど、「砂の女」だとかはよくわからなかった。
そしてこの多和田葉子もよくわからなかった。
まず併録されている「ペルソナ」の個人的な感想を言うと、書きたい構造的なものがあまりにも前に出すぎてしまっていて小説になる体を逃しているような気がした。
そして「犬婿入り」は、民話をテーマにした作品。非常に不思議な話。
文章のセンテンスが非常に長く読みづらい点がややあった。
で、内容については前半こそ面白く読めても、後半はどうにも微妙。
これもまた何となく言いたいことはわかるんだけど……どうなんだろ。
寓話的な形にするんだったらこの間読んだ「影をなくした男」みたいに(過去記事)物語性を上げればいいのにと思うけど、その「物語性」というのもおそらく多和田葉子の中で「存在を考える」うえで重要なことであって、そこに作者のフィルターがかかってくる。
そのためこの作者の書く小説はあくまで物語という目線で見ると尻すぼみになることを逃れられない。と思う。
正直、普通の人には書けない小説ですごい。
でもこういう小説が100年後も読まれるのか、と思うと微妙だと思う。
▼「四十一番の少年」井上ひさし
四十一番の少年新装版 (文春文庫) [ 井上ひさし ]
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ひょっこりひょうたん島の作者で有名な井上ひさし。
見た目は優しそうな人なのに結構DV癖とかがあったらしい、人は見た目によらないというかなんというか。
で、結構有名な人なんだけど実は作品を読むのは初。
表題作の「四十一番の少年」は養護児童施設での生活が描かれたもの。
四十一番目というのは洗濯ものを管理するナンバーで、全員に番号がついている。
先に全体的な感想を言うと、普通にいい話であり、寂しさを感じさせる内容。
特に主人公をいじめていた少年が最後自分で作った未来の履歴書をびりびりに破いてしまうシーンは感じるものがあった。すっごい嫌なやつではあったんだけどね。
あと、河辺で、主人公と少年がまるで兄弟のように一緒に寝るシーンとか。
そして併録の「汚点」と「あくる朝の蝉」もいい。
「汚点」は弟を想う兄を描いた普通にいい小説。
また自分にとって特別な存在である母親だって他人から見ればただの雌だという言葉は感じるものがあった。
「あくる朝の蝉」は孤児院で暮らしている兄弟の強さが描かれながら、同時に寂しさも描かれている。
なんというかどの話も普通に良くて、しかもどの年代の人が読んでもそれなりに感じるものがあるだろう、ある意味名作だった。
特別な趣向がこらされているわけではないけど、普通にいい小説になっているのだから作者の力量の高さがうかがえる。