【書評】「影をなくした男」「少将滋幹の母」の感想
▼「影をなくした男」シャミッソー
影をなくした男 (岩波文庫) [ アーデルベルト・フォン・シャミッソー ]
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不思議な話。
ある日、ある男との取引でほぼ無限に生まれるお金の代わりに影を失う男の話。
なぜだかよくわからないが、この世界では影のない人間の扱いはひどく、主人公はお金こそたくさんあるものの、影がないというだけで不幸な境遇になる。
なんだかカフカみたいな話だと感じたが、このシャミッソーの方が古い人である。
「カフカ シャミッソー」みたいな感じで検索しても、何もヒットしないので無関係なんだろうか、同じドイツ人だし関係ありそうだけど……。
ちなみに「安部公房とシャミッソー」というワードはヒットした。やっぱり関係あるのかなぁ。
それにしても影とはなんなんだろう。
一番の側近のベンデルは影がなくてもいつまでも慕ってくれている、でも他の人からの扱いはひどい、そんな存在が「影」。
お金なんかよりもはるかに大切な「影」。
ただし、この影に明確な答えを提示する必要はないのだと思う。
なぜなら人それぞれで影についての正解を持っていてもいいと思うから。
短くめで読みやすい寓話。
おすすめ。
▼「少将滋幹の母」谷崎潤一郎
少将滋幹の母 改版 (新潮文庫) [ 谷崎潤一郎 ]
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またまた谷崎潤一郎。
そしてまたまた面白い。
いや、本音を言えば平安時代の書物を背景にしているという設定が個人的には合わなくて、どうだろうと思っていたら中盤辺りからどんどん面白くなってきて最後のシーンの美しさに感動。
自分の妻を酔った勢いで献上してしまうというものすごい話だが、面白かった。
息子がほとんど見たことのない母親を美化しているというイメージは自分の書こうとしている小説とも重なって参考になった。
また不浄観の話などもっと調べたいなと思わせてくれた。
それにしても谷崎潤一郎を読むと小説っていうのはまず、いかに物語性が大事なのかということに気づかされる。
そもそも、小説のスタートって、思想を披露したりよくわからない芸術的なものじゃなくて、単純に面白い物語っていうスタートなんですよね。
でもほんとこんな何てことない作品でも面白いんだから文豪ですね谷崎先生は。
谷崎潤一郎を読んだことない人はとにかくなんでもいいから読んでみることをおすすめします。
意外と現代の感覚に近くてびっくりしますよ。