【書評】「絵のない絵本」「重力の都」の感想
▼「絵のない絵本」アンデルセン
絵のない絵本【電子書籍】[ アンデルセン ]
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有名なアンデルセンの「絵のない絵本」。
マッチ売りの少女とか、人魚姫の作者で超有名な童話作家。
貧しかったり、父親が若い頃に死んでしまったりでなかなか苦労人だったらしい。
そういう苦労が逆に童話を作る純粋な精神を鍛えたのかもしれない。
まぁそれは置いといて「絵のない絵本」の感想。
基本的にはショートショートで、月が語りかけてきているという設定の元、千一夜物語のように進む小説。
個人的にはなんというか……短くてあっさりしすぎていて、物足りなかったというのが本音。
ただ、読み方を間違えたなーと思っていて、この小説はひとつひとつの話を詩として読むべきだったと反省。
寓話的な感じだったのであくまでそういう目線で見てしまいましたが、これは間違いなく詩のような気がする。
普通のお話だったり、寓話的なものを求めてこの「絵のない絵本」を読むと拍子抜けしてしまうと思う。
アヒルを笑ってしまった話とか、最後の話で子供がお祈りしたこととかは微笑ましいエピソードでよかったけど、それだけだった。
文体も読みやすいし、文庫本で100Pくらいなのでトータルでとっつきやすい小説ではあるけど、この面白さを理解するのは結構上級者向けなのかもしれない。
▼「重力の都」中上健次
【中古】 重力の都 /中上健次【著】 【中古】afb
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中上健次の「重力の都」。
昔、この作者の「岬」を読んですごいなぁと感じたのを今でも思い出す。
で、この小説は谷崎潤一郎にささげると言っているだけあって谷崎潤一郎の「春琴抄」みたいに盲目な人が出てくる。
(ちなみに「岬」も「春琴抄」もおすすめなので読んでみてください)
春琴抄 (角川文庫) [ 谷崎潤一郎 ]
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で、本題の「重力の都」。
連作短編集で、基本的に男女についての話。
うーん、「岬」はよかったけど、これはどうだろうか。
いくつか、ぴんとくる場面はあった。
「わたしが見た物、何でも見えたし、わたしが言うた事、何でも信じてしたのに、ちょっと他所で大きなったら何で?」とか。
でも正直、これは! という感じはなかった気がする。
何でだろうと考えた時に、あくまで個人的な意見だけど、中上健次の書く「男女の書き方」がちょっと今の時代には古く感じてしまうからだと思う。
何というか、中上健次の書く男は、昔ながらな「オラオラ系」。で、それにわりと従っちゃう女、という構図。
今の時代でこんな雰囲気のものを読むと、違和感が目立って小説世界も虚構にしか見えてこなくなってしまって、面白くない。
谷崎潤一郎を今読んでも面白いって思うのは、きっと、男が情けない感じで描かれているからじゃないでしょうか?
草食系男子というかなんというか、現代の感覚とかなり近いから古びてない。
でも中上健次の書く男女はもう古びてしまっている。
でもそれは必ずしも時代の流れだけが悪いんじゃなくて、中上健次がそういう男女(特に男)しか創造できなかったことにあるんだと思う。
だから時代の流れに負けない名作っていうのは本当にすごい作品なんだ、っていうのがよくわかりました。