【書評】「86(エイティシックス)」「卍(まんじ)」の感想
▼「86(エイティシックス)」
86-エイティシックスー (電撃文庫) [ 安里 アサト ]
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話題のライトノベル。
その前に読んだライトノベルがよくなかったので、↓
【書評】「ラストエンブリオ」「あかい花」の感想 - 僕の頭の中の悪霊~作家志望の書評メインのブログ~
正直、あまり期待していなかったのですが、これは普通にいい小説。面白い。
たぶん、普通にハヤカワのSFとかでも出版できるんじゃないかなぁ? っていうちゃんと完成している小説。
設定が「マヴラブ」だとか、「スターシップトゥルーパーズ」っぽい感じはするけど、まぁ似たようなのはいくらでもあるわけで、そこは目をつむるべきでしょう。
すっごく、簡単にあらすじを説明すると86と呼ばれる差別された人間たちを使って敵国と戦わせている世界の話。
個人的にはSFはそこまで読まないんだけど、これは一気に小説の世界に引き込まれた。
ライトノベルのSFってどうも「ゲームの世界」っていう感じが強くて、おそらくそれは作者の多くがゲームに影響を受けて書いているから。だからどうにも薄っぺらい印象になってしまう。
おそらくその薄っぺらさをごまかすために「じゃあそもそもゲームの世界にしよう」とゲーム系のライトノベルが多く書かれたのだと思う。
そんの中でこの小説はちゃんとSFしてる。
うーん、いい。
気になるのがもう3巻くらいまで出ているということですが、この1巻でかなり綺麗に話が終わっているというところ。
続きが蛇足になってしまわないか心配。次の巻も読みます。
作者のあとがきに「ガーターベルトはロマンですよ?」というライトノベル的なあとがきが書いてあるけど内容とガーターベルトは一切関係なくて笑った。
▼「卍(まんじ)」谷崎潤一郎
卍(まんじ)【電子書籍】[ 谷崎潤一郎 ]
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日本文学の重鎮的存在、谷崎潤一郎。
今までもいくつかの作品は読んだけど、今回この「卍」で谷崎文学をひさしぶりに読んだ。
話としては背表紙とかに同性愛の話と書いてあありますが、それほど同性愛を押し出した内容ではなく、それはあくまで一部分。
最初は主人公が光子さんという絶世の美女に恋をしてそこから、光子さんの旦那とか、主人公の旦那とかもまじえて、なかなか複雑な恋愛関係になっていく。
一度本屋とかでページをめくってもらうとわかりますが、改行は全然ないし、関西弁みたいな言葉遣いが一見読みづらそうで敬遠してしまう人が多いと思います。
が、しかし、読んでみればわかる谷崎の語りのうまさ。
読みづらそうに見えるのになぜか読みやすく、むしろそれほど先が気になるわけではないのに何となくページをめくり続けてしまう恐ろしさ。
これこそが語りのうまさ。文章の力でもっていくというのが本当にすごい。
で、また内容の話に戻ると、この光子さんという女性が悪女なのか何なのか、とにかく周りを振り回す。
文中にも観音様に例える場面がありますが、周囲の人間は光子さんに夢中になってしまって、振り回されているのに光子さんしか見えなくなってしまう。
わからないけど、神様のような究極の女性を作り出すために、「もはや女性すら夢中にさせてしまう」同性愛設定を盛り込んだのではないかと予測。
この女性像は、なかなか面白い。
他の作品もそうだけど、谷崎文学はタイトルと新潮文庫の表紙が格式高い感じになってしまっているが、決してそんなことはなくて読み物として誰が読んでも面白い小説。
この「卍(まんじ)」もおすすめです。
まじまんじ。