【書評】「ラストエンブリオ」「あかい花」の感想
▼ラストエンブリオ
ラストエンブリオ 1 問題児の帰還【電子書籍】[ 竜ノ湖 太郎 ]
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こうばしい小説。
最近読んだ中で一番こうばしい。
こういう小説を書くってことは結構若い作者なんだろうなぁと思ったら自分より少し年上だった、わお。
前作があるらしいが読んでいなくても内容はなんとなくわかる。
こうばしいこうばしいと言ったが、はっきり言っていざこういう小説を書こうとすると難しい。そういう意味では作者の想像力はすごいとは思う。
ただし繰り返すがかなりこうばしい。
キャラクターの名前や、そのやり取り、また「エヴリシングカンパニー」などの固有名詞がとにかくこうばしい。
ハードボイルド風な会話文は、もはやほほえましく見えてくる。
漫画の「血界戦線」なんかをイメージしてもらえればわかるかもしれない。
けど「血界戦線」は狙ってこうばしくしている感じだが、この小説は天然でこうばしい感じがする。
おそらくだが、作者の読書量は少ないと思う。
小説ではなく、漫画やアニメからの影響の繰り返しがこういう世界観をうみだすのだろう。
こういう人は文体がこなれていなくて、ゲーム的な感じになるのが特徴。
個人的には漫画アニメゲームが好きだったら小説以外をやればいいじゃんというのが持論で、心理描写も特にないのでなおさらだと思う。
イラストは可愛い。
▼「あかい花」ガルシン
【中古】 紅い花(あかい花) 他四篇 岩波文庫/ガルシン【作】,神西清【訳】 【中古】afb
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ガルシンの「あかい花」。ノヴァーリスの「青い花」との関係性は不明。
表題作以外にも4つの短編が入っていて、どれも短い。すべて合わせて文庫で100ページほど。
短くても内容は非常に感じるものがあった。
おすすめ。
「あかい花」は狂人が外に生えている赤い花に心をとらわれ、その「暗い何か」と戦う話。
しかし、その何かは狂人の妄想でしかない。
読んで僕がまっさきに思ったのは、職場のことだった。
前の職場で僕は常に問題意識を持って仕事に取り組んでいた。言われていなくても問題だと思ったことは解消に向けて頑張っていた。
けれど、そんなことをするよりも、もっとのほほんと生きて、上司に気に入られるよう動いている人の方が出世する。
僕がしていた戦いは意味はあるかもしれないが、会社にとっては無意味な戦いだった。
もうひとつ思ったのは、僕の文学的な問題意識だ。つまり簡単に平たく言えば、どう生きるべきなんだろう、という意識。
しかし、現実問題、そんなことを考えずに楽しく生きているほうが、よっぽど正解なのだ。
僕はこれらの自分の中の「問題意識みたいなもの」はこの「あかい花」ににていると思った。
しかし、そんな心のなかに「あかい花」がある人のことをガルシンは狂人として書いている。
トーマス・マンの「トニオクレーガー」でも芸術という「あかい花」を抱えた人間は不幸に終わる。
一度でも「あかい花」が生まれてしまったらもう駄目なのかもしれない。
気になったのでガルシンについて調べてみると太宰治が傾倒した作家だという。たしかに太宰とガルシンは繋がるものがあると感じた。
漫画で最近「ひとつばな」というのを読んだが、この「あかい花」の影響がもしかしたらあるのかもしれない。
ひとつばな(1)【電子書籍】[ ミナミ ]
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