【書評】「エロマンガ先生」「潮騒」「薬指の標本」「夏休み」を読んでの感想
どうも管理人です。
また最近読んだ本の感想を書きます。
▼「エロマンガ先生」
エロマンガ先生 妹と開かずの間 (電撃文庫) [ 伏見つかさ ]
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タイトルがいい。
こんなの本屋で見たらとりあえず手に取ってみてしまう。キャッチーなタイトルで本屋に来た人に、まず手に取らせる、というのが成功していると思う。
で内容はエロマンガ家の話ではなく、ライトノベル作家の話。
作中でも自分の体験をもとに小説を書く云々みたいな話題に触れられていたが、この「エロマンガ先生」自体がはっきり言って作者の実体験、つまり私小説に近いものだろう。
作者自身の小説家としての悩み+妹→おそらく前作の「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」への作者自身の愛を融合させて作った小説だと思う。
そのため実体験+虚構が混ぜられているものになっているが、実体験の部分は事実の力もあって面白い。
が、虚構の部分は実体験の部分に比べて、やや冗長に感じた。しかし、ラストは爽やかだし、御隣さんは同じ小説家でライバル的な存在という図式は次の巻を機会があれば読んでみようという気にさせてくれる。
読者を(それが実際に楽しめるかは別として)楽しませようという気概が感じられ、作中でも主人公が「悩みとか忘れられる面白い小説を書きたい」と言っているのでそれが作者本人の思いなんだろう。
そういう面は変に高尚な小説を書こうとして失敗している作家に比べて、大人だし、好感が持てる(今回の感想に書いた「夏休み」はその悪い方の例)
それにしてもこの作者が「妹」にこだわるのは前作への愛なのか、それともそれ以前の問題なのか……笑。
▼三島由紀夫「潮騒」
潮騒改版 (新潮文庫) [ 三島由紀夫 ]
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お恥ずかしながら三島由紀夫は「金閣寺」と「命売ります」という小説しか読んだことがなかった。
この「潮騒」はびっくりするくらい普通な青春恋愛小説。ライバルがいたりで、見方を変えれば本当にラブコメ的。
正直なんで主人公とヒロインはいきなりこんなに好きあってるんだろう? っていう疑問はあった。
初江に対しては美少女設定だから一目惚れでもいいかもしれないけど(主人公は童貞だし)、なぜ両想いなのか。不思議。
いわゆる現代のチョロイン的な要素の走りなのかしら。
ちなみにラストシーンはちょっと萌えたりなんかもする。
関係ないけど僕はこういう少し現代とは離れた世代の小説を読む時、女性の登場人物はとにかく自分の好きな現代的な女性像を想像して読むことが多い。
そうやって読むと時代の差みたいなものが薄まって楽しく読める。今回の「潮騒」の初江についてもそうやって想像して読んだ。
そのおかげで裸で向き合うシーンなんかは「エロ!笑」と思いながら読めて楽しめた。
でもまぁ、「金閣寺」とは毛色が違って、わざわざ三島由紀夫の小説でこれを読む必要はあるかなぁ? というのが正直な感想。
▼小川洋子「薬指の標本」
薬指の標本 (新潮文庫) [ 小川洋子(1962-) ]
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表題作と「六角形の小部屋」を収録した一冊。
不思議な話。カフカ的というかなんというか。
川上弘美なんかと近いと感じたりするが、川上弘美に比べてフワフワ感が少ない。
村上春樹が近いのかもしれない。いや、村上春樹と川上弘美を足して半分に割ったくらいな雰囲気の作品だ。
個人的にはこういう作品は、好き。収録されている2作品はぼくの読み方が間違っていなければ主題は2つとも似かよっている、が、「薬指の標本」の方が上か。
言葉にできない「むなしさ」みたいな感情を物語にのせて描くことで、言葉で説明できない感情を読み手に伝えている。面白がってこういう寓話を書いているんじゃなくてこういう方法でしか書けなかったんだよ、ということ。
そういえば小川洋子は海外での評価が高いらしい。安部公房といい、村上春樹といい、寓話的なスタイルは海外でうけるのかしら。
小川洋子の作品は10年前くらいに「博士の愛した数式」を読んで以来。記憶が曖昧だが、こちらはもう少しリアリズムだった気がする。
それにしても僕は「薬指」だとか博士の「記憶」だとか、何か失うものに小説の感情を乗せるスタイルは好きだ。
▼中村航「夏休み」
夏休み (集英社文庫) [ 中村航 ]
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エロ漫画先生でもちょっと書いたけど、本の売れ行きっていうのはタイトルと装丁は内容以上に重要な場合もあると思う。
この「夏休み」の場合、タイトルはいかんせん地味なので棚に刺さってるだけだと売れにくいだろうけど、ひとたび平積みにして何かさわやかなポップでもつければおそらく、結構売れるのではないでしょうか。
そのくらい表紙の絵については「夏休み感」があっていい。
↓以下、ファンの人がいたら記事を読むのをやめてください。
で内容。
もうほんと僕はあまり本を批判することはないんだけど、これについては出版できるレベルの小説ではないと思う。
まず冒頭で、母親のことをママと呼ぶかお母さんと呼ぶか云々の話がだらだらと書かれているが、そこに何の情緒も感じられない。まじでだからなに? という冒頭。
そしていちいち書くことがつまらない。
俺丼とか、ホモと間違われてるエピソードとかなんとかとにかくいちいち気が利いていない。書いている本人だけが楽しんでいるようで寒い。
まさかスマッシュブラザーズと思われるゲームをプレイしている様を読まされるとは思わなかった。しかもそれがひたすら面白くない。
なぜこれを面白いと作者は思ったのか、とにかく謎。
この小説には文学的な要素もエンタメ的な要素もなにもない。つまりもうこれは小説ではない。
この本を読むと、あー村上春樹って気のきいたことを書くのがうまいんだなーとあらためて感心させられる。
家出について書いたところは、おそらくうまく書けばなかなか面白かったのではと思うが、この作者が書くとつまらない。
この人はたしかアニメの「バンドリ!」の原作者だったような気がするが、この人になぜまかせてしまったのだろうか。だからつまらなくなったんじゃない?
集英社さん、よくもまぁこんな小説を出版しましたね、と称えたくなる、そんな小説。多分「小説家になろう」とかの小説の方がよっぽどいい。
本を一冊読み終わると達成感で不思議とその本が面白かったように感じてしまうことがあったけど、まだまだ僕も本の良し悪しがわかるんだなぁと認識できたことが唯一の収穫。
表紙がさわやかだが、完全なる表紙詐欺です。
パッケージ詐欺のAVを見た気分。
勘弁してください。
※一気にこの批判文を書いたあとで、やっぱり少しいいすぎたかと思って「夏休み」について調べたらかつて芥川賞候補だったとのこと。
おいおい、こんなのが候補ってまじかよと思って当時の選評を見ると、
タイトルが示すように何とも他愛なく、ゲーム機で大真面目に遊んでいる四人の子供(原文傍点)を眺めて、溜息をつくしかなかった。
僕が思ったこととほとんど変わらない内容でほっとした。